100マイルの終わらない物語

100マイルの山岳レースに挑戦した記録です。長いです。だって100マイルだもの。

KOUMI2018 100マイル完走記(ペーサーとして)

KOUMI100 (2018.10.06~08)

 

セカキタこと世界のキタノさんのペーサーとしてKOUMI100を走ってきた。信越で引っ張ってもらったお返しに今度は僕がペーサーをする番だ。

KOUMI100は一周32kmを5周もさせられる、まともな人間ならば精神を病んでしまうと言われる難コース。大体2,3周目でメンタルをやられてしまうというのが典型的な症状と言われている。

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これがコースマップなんだが、今年は大雨でコースが崩落。前日夜のブリーフィングでニュウ(乳)の登りが崩れているので、下りルートから登って降りてくるピストンに変更という発表。そのため距離が伸びて36km(160⇒180km)になるという発表があり、折からの蒸し暑さもあって過酷なレースになるのは間違いないと思われた。

 

ランナー達と一緒に土曜夜に現地入りして、自分はペーサーなんで気楽にビールを飲んで就寝。翌朝午前3時起床、スタート地点へ向かった。

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真っ暗な午前5時にスタート。カウントダウンも無く唐突にスタートするというゆるさがOSJクオリティ。ヘッデンをつけたランナー達は闇夜へ吸い込まれていった。

 

しばらく仮眠室でうとうとする。4時間くらいでトップ選手、続いて帝珠さんが帰ってきた。速い。

 

続々とクラブの仲間も帰って来る。キタノさんは1周目、5時間30分くらい。元気に帰ってきた。こちらも張り切って水を入れ替えたり、そばを運んだりする。少し休んですぐにエイドを出て行った。

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次に帰ってくるのは夕方かなと思いながら、またしばらく横になる。スマホをいじったり仮眠したり。100マイルはサポートで待つのも長丁場だ。

 

夕方5時過ぎにキタノさん帰って来た。2周目は6時間40分くらい。少し顔がつかれていた。足が痛そうで、トイレへ行く歩みもゆっくり。エアサロで前腿を冷やす。下りでがんばりすぎたのかもしれない。大丈夫だろうか。

カレーメシ食べる。キタノさん、カレーメシ5分かかるって知ってましたか。しっかり完食していましたが、エイド長かったですね。

 

キタノさんの目標は、3周を20時間で終えること。6時間+7時間+7時間であればちょうど20時間だ。1、2週目はほぼタイム通りだったから、3週目は7時間ちょっとで午前1時までに帰ってくると約束して、元気にスタートしていった。

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仮眠室でまたしばらく横になる。この頃にはペーサーとリタイアした選手が一緒に雑魚寝をしていた。この夜戦病院感、いよいよ100マイルらしくなってきたな。

 

23時頃から起き出して、着替えて食事をとって準備を始める。深夜0時頃からは岩本町の速いランナーたちが続々と帰って来て、ペーサーと一緒に4週目にスタートしていく。

 

0時半過ぎに北斗くんが帰って来た。あの強い北斗くんが足攣りに苦しんで、しばらく立てないでいた。このコースの恐ろしさを目の当たりにした瞬間だった。

 

さすがに1時には出ないとまずいよねと北斗&設楽ペアもスタートして行った。次第に待機しているペーサー達に焦りの色が見え始める。

4週目は遅くとも1時半にはスタートしなければ、ゴールは難しくなるというのが下さんも言っていたKOUMIの通説だ。1時半で残り7時間半なのだから、きっとその通りなのだろう。でもキタノさんはまだ帰ってこない。

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午前1時

キタノさん、帰ってこない。

午前2時

キタノさん、帰ってこない。

 

さすがにやばくないですかこれ。

 

マツーイ&ミキティ夫妻と、キタノさんどこかで寝ちゃったのかな、などと心配する。完走の可能性が一気に遠のいていく気がした。

 

午前2時過ぎ、キタノさん帰ってきた。両手を合わせて謝っていた。

8時間以上が経っていた。

 

残り時間は6時間45分。

事態は絶望的に思えた。しかしどんな状況下であれペーサーがやるべき事はただ一つ。

選手をゴールへ連れて行く。

 

「キタノさん、大丈夫まだ完走は出来ます。でも走らないと間に合わないです。この4周目を最後と思ってキタノさんの全部を出し切ってください。」

 

休む間も無くエイドを出た。深夜2時15分。濃厚なキャベツの香りが充満した真っ暗な農道を並走して進む。

 

正直、完走出来る確信なんて無かった。何しろKOUMIのコースを走るのは初めてだ。途中の目標タイムも何もあったもんじゃない。ただ、キタノさんの力を限界まで引き出すこと。僅かでも完走出来る望みがあるとすれば、今はそれ以外にやるべき事はない。

 

僕は鬼になった。

 

しばらくロードを進んで林道に入る。ここまで戦ってきたランナーの気持ちを折るような、退屈で緩慢な登り。先を行きながらジョグで登りを引っ張る。キタノさんとあえて距離を取って先を行き、後ろを振り返ってキタノさんが歩いていると手を叩いて鼓舞した。フラットなところに出るとまたジョグで引っ張る。林道は途中ぬかるんで足場も悪かったので走りづらかったに違いない。でもとにかく走れるだけ走るしかない。

 

そのうち、ちらほらと先行するランナーを抜くようになった。大体みんな諦め顔でよろよろと歩いている。途中で抜いたペーサーとランナーが辛そうな顔をして「完走厳しいですよね」と言っていたが、「大丈夫でしょ!行けるでしょ!」と答えた。きっとそれは自分に言い聞かせていたのだけれど。 


そうだ。ペースは確実に上がっている。

 

しばらく行くと最初の本沢温泉エイド。エイドの手前でキタノさんのフラスクをもらって先に走り、補給時間を縮める。

そこから先はロードを少し登って、長い下り。このあたりから戻ってくる速いランナーとすれ違うようになり安心感が増した。

 

長い長い下り坂では、キタノさんはゆっくりと走っていた。「もう少しペースを上げましょう」僕はそんな残酷な言葉を吐く。ペースを上げられるのなら、とっくにそうしているだろう。しかし彼はもう120km以上も走っているのだ。きっと心の中で僕を恨んでいることだろう。それでもいい。ペーサーとして出来ることをやらずに関門に締め出されるのはごめんだ。

確か2時頃に出て7時間ペースで引っ張ると言っていたサクさんにも追いついた。ランナーは屈伸をしていて、足が完全に終わったようだった。挑む者と諦める者。暗闇の中での死闘は続いた。

 

ロードを降り切って少し登ると稲子湯エイドに到着。ここでキタノさんはトイレに行く。外で待っていたがなかなか出てこなくて焦る。ガスが溜まってお腹の調子が悪そうだった。エイドを出てまたロードを走り、しばらく行くとトレイルの入口に到着。いよいよコースの最高峰、ニュウ(乳)への登りだ。

 

「キタノさん、登りは出来るだけペースを落とさずにテンポ良くいきましょう」

最初は緩やかだった登りが、途中から一気に登るトレイルへと変化して牙を剥いてきた。ストックを使って一歩一歩踏みしめるように登ってくるキタノさん。うるさいだろうと思ったが、何度もペースを落とさないように声をかけた。

途中で本当にきつそうになってきたので、iPhoneで仕込んでおいたロッキーのテーマをかけた。イワクラマイラーチームに入った時、最初の宿題はロッキーを見てくることだった。あの練習を乗り越えてきたことを思い出してほしかった。でも半分は自分を奮い立たせるためにロッキーを流していたのかもしれない。よろよろと歩みを止めずに登ってくるキタノさんはまるでゾンビのようだった。夜明けのロッキーゾンビショーは永遠に続くかのように思われた。

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夜が明けてきたニュウ(乳)への登りは苔蒸す森で本当に美しかった。下ってくるイワクラのランナーとすれ違い、かなりピークに近づいたかなと思った時に、降りてくる北斗&設楽ペアとすれ違った。彼らは自分たちよりも1時間以上先に出発していた。ということは差がかなりつまっているという事だ。これは、本当に完走できるかもしれない。いや、完走するんだ。

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登り続けると程なくピークにたどり着いた。ピークにいたスタッフに間に合うかと聞くと、下りをしっかり走れば間に合うかもしれないと言われる。すぐに折り返して下る。キタノさんは決して速くは無いが、下りは走れていた。これは行けるかもしれない。小まめに振り返って声をかけながら引き続けた。

 

登りは長く、下りは一瞬。あっという間にロードまで戻り、ここも気が緩んで歩かないように走り続けた。稲子湯エイドに戻ってきたのは午前7時半だった。関門の9時まであと1時間半。コースマップで距離を確認すると大体残り12キロほどだった。ここから先は長いロードの登り。歩きでは間に合わないけど、走ればまだ望みがあるかもしれない。足がぼろぼろなのはわかっていたけど言った。「キタノさん、走れば間に合います。最後の上り坂、全部出し切ってください。」

 

気が遠くなるような長い登り。キタノさんはストックをつきながら歩き走りを繰り返す。僕は振り返りながら手を叩いて歓声を送る。呼吸を荒げながらも歩みを止めないロッキーゾンビは最高にかっこよかった。

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永遠に続くかのように思われた登りがようやくフラットになり、下り始め、その先に本沢温泉エイドが見えた。「あと6kmです」。時計を見ると残り1時間だった。キロ10分で進めば間に合う。完走できる。「キタノさんやりましたね、間に合いますよ!」。二人で下りのトレイルをひたすら走った。歓喜の走りだった。遠くに町が見えた。

 

ようやく最後のロードに出た。残り時間は20分。少し長いロードの登りもあったが、なるべく歩かずに最後まで走る。遠くで会場のアナウンスが聞こえてくる。

 

最終関門に近づくと、5週目に出ていくランナー達とすれ違う。あと7分だから間に合うよとか、頑張れとか、声をかけてくれた。

 

そして最後の登り坂。スリーピークスの松井さんやマイザックが応援をしてくれた。登る。最後のストレート。なおちゃんが叫びながら出てきた。やったよ。間に合ったよ。泣けた。関門ラインを通過した。8時55分。関門の5分前だった。

キタノさん、最後まで諦めないでいてくれてありがとう。

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ここまでが今回のKOUMIのハイライトだ。

5周目は特に語るべき事はない。同じようなロッキーゾンビショーが繰り返されただけだ。


キタノさん、4周目で全部出し切れと言ったのにすぐに5周目に連れて出して、余裕が無いのでまた走らせて、エイドでもラーメンすら食べさせずにごめんなさい。キタノさんがゴールしたのは16時30分。ありがとうキタノさん、こんな素敵なドラマを見せてくれて。

あなたと一緒に走れて本当に良かった。心からありがとう。

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<レース後>

終わってみれば実に完走率は20%強という過酷な大会であった。

 

ペーサーとして走った4周目は区間順位12位という結果に驚いた。北野さんの復活劇はすごかった。

 

ロッキーをリピートしすぎてiPhoneが壊れた。

 

人のために走る事がこんなに嬉しいなんて。

 

後でランボーのサポートメンバーも応援をしてくれていた事を聞いた。嬉しかった。

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さて来年出るか、応援するか、一年かけて悩むとしよう。

 

#koumi100 #セカキタ #岩本町trc