100マイルの終わらない物語

100マイルの山岳レースに挑戦した記録です。長いです。だって100マイルだもの。

信越五岳2018 100マイル完走記

信越五岳100マイル(2018.09.15〜16)

 

17年は雨で短縮になった信越五岳。100kmでもうお腹いっぱいだと思った。でも気づけば100マイルにエントリーをしていた。

 

今回のテーマは「100マイルを日常に」。気負わず、気張らず、リラックスして最後まで行きたいなと思った。その理由は、目標タイムを作った時、それぞれのエイドでの残りタイムが1時間前後しか無かったからだった。何か1つ歯車が狂えばDNFになりかねない。でも何もトラブルが起きなければ制限ギリギリでも完走は出来るはず。だからこそ、制限に追われて焦って潰れるという展開だけは避けたかった。


前日に10時間近く寝て、おまけに仮眠2時間ほどできたので、睡眠は十分すぎるほどとった。体調も良好で、リタイアの理由も見つからないなんて思いながらスタート会場へ向かう。

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スタートは19:30。昨年はコース短縮になった事で飛ばしてしまい50km地点のアパまででバテてしまったので、今年は絶対にゆっくり入ると決めていた。ゲレンデの緩慢な上りを歩きも入れながらゆっくり進んでゆく。ゆっくりのつもりが、前半は心拍155くらいに上がりいつもより少し心拍が上がりやすい気がした。

最初のウォーターエイドではポカリを水で薄めて満タンにしてすぐに出発した。ここから先は最初の上りの斑尾山だ。登りは出来るだけ筋肉に負荷をかけないように、スッスッと体を持ち上げていくイメージで登り、しばらく行くと試走で見覚えのある山頂に出た。そこからの下りも見覚えのあるゲレンデへ続く下り。後ろのランナーがプッシュしてきても気にせずに、特に下りは丁寧に降りていった。下り切ると24km地点、最初のエイドバンフに到着した。北斗くんやともちゃんが声援を送って迎えてくれたのがうれしかった。「調子はどうですか」「まだ序盤だからね」そう答えて、メダリストを満タンに補給してぬれせんべいを食べてすぐに出発した。


そこからは信越らしい夜のシングルトラックが始まる。このあたりまでくると前後のランナーも同じペースの人になり淡々と進んでいった。風景に引き寄せられて眠っていた昨年の記憶が蘇ってくる感じが心地よい。時折小雨が降ってくるが、夜の山の雨はやはり嫌いではない。僕と森との間を、雨が繋いでくれるような一体感を感じる。


途中でイワクラの虎山さんとすれ違う。泥でスリップしていたが、まだまだ元気そうだ。このあたりで若干左膝に違和感を感じることがあったが、気のせいと言い聞かせてもくもくと進む。そうしているうちに37km地点の赤池エイドへ到着。時間は1時過ぎで、昨年よりもゆっくりと入ったつもりが赤池到着は昨年とあまり時間が変わらなかったので安心する。エイド手前の急な下りを小学生くらいの子供が誘導してくれた。テントではブルーシートで寝転んでストレッチしている人もいた。僕もレインをザックに収納して、椅子に座って軽くストレッチして、気持ちを引き締める。さあここからが昨年きつかった長いセクションだ。しっかり補給をして出かけよう。


赤池を出るとしばらく登りがあった後に、長い下りのパート。途中で40kmの表示が出てくる。ようやく1/4だと思うと茫然としたが、一方でここまでノートラブルで体力も充実しており、今回は完走出来るのではないかという確信が少しずつ湧き上がってくる。

多くのランナーが闇の中をただ進む。それは自己と他者の境界を曖昧に感じさせ、自分は大きな意思で進んでいる何かの一部であるかにすぎないような感覚を覚える。

下り切ると見覚えのある川沿いマンション横の叢に出て、長い垂直な階段をライトの列が天へと登っていくのが見えた。さあいよいよここからが昨年の鬼門、アパエイド前の山だ。昨年はここでかなり体力を削られてしまったので、今年はなるべくセーブしながら登っていった。

後ろでオエッと吐きそうになる声が聞こえる。この距離で内臓をやられてしまうと先がきついだろうなと思いながら、登っていると、後ろからオエーが離れない。むしろ近づいてくる。ペース上げすぎだから落とせばいいのにと思いながら、暗闇で背後に迫るオエーオエーに怯えながらを山を登っていった。視界が開けてゲレンデに出る。いつしかオエーは消えていた。丁寧にゲレンデを下り続けるとようやくアパリゾートの光が見えてきた。午前4:55、56km地点のアパリゾートへ到着。


アパリゾートではイワクラメンバーが大歓声で出迎えてくれてうれしかった。ドロップバッグを受け取り、秘密兵器のカップヌードルカレーBIGにお湯を入れる。こまめにエイドでも固形物を食べていたのであまり空腹感は無かったが、ここでもしっかり食べた。ペーサーの北野さんがここまで来てくれていて元気そうですね、と声をかけてくれた。しばらくすると設楽さん到着。少し表情がきつそうでマッサージをしてもらっていた。こっしーさん、ゆーすけさん、しんさん達はかなり前に行ったらしい。なおちゃんもずいぶん前に通過したそうで調子よさそうだ。

昨年と同じくエイドにいる間に空が白んでくる。常に昨年の自分の状態を思い出して比較していたが調子は決して悪くない。ずっとマフェトンペースを維持出来ているので疲労感も無い。食べれている。前回UTMFで初投入した粉飴ジェルのグレープフルーツジュース割りも調子がよくて、吐き気を催すことが無い。二本目の500mLボトル入りジェルをザックに入れて、エイドを出た。

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明け方のトレイルを行きながら、昨年はアパの直後が疲労感で走れなかったことを思い出す。今年は疲れはまだない。明け方のトレイルを淡々と進むとすぐにヘッデンがいらないほど明るくなってきた。トレイルを抜けると見晴しの良い田園地帯へ出て、朝の黄金色の稲穂の間を淡々と進む。ここからが最も長いロードのパートだ。ロードでは赤のエクストレイルに乗った石川さんが通りがかりに声援を送ってくれた。

しばらく進むと川沿いに降りて、前のランナーに登りですかねと聞かれたので、はいここから長い登りです、と答えて前を行かせてもらった。昨年は長すぎる川沿いの登りが苦痛だったが、今年はしっかりと走れたので何人かランナーを抜いて進んだ。川を上り切ると再びロードの登りに出て、民家の窓から子供が声援を送ってくれたのが嬉しかった。用水路の脇を抜けて林道を進むとようやく遠くに青少年自然の家が見えてきた。7:45第二関門の71km地点、青少年自然の家に到着。昨年より15分ほどタイムを縮められた。


然の家にも北野さん、神野さん、北斗さんたちがいてくれて声援を送ってくれた。いやーしつこい登りだったよと少し愚痴をこぼす。ずっとサポートしてくれて、寝なくて大丈夫なの?と聞いたら、仮眠とったから大丈夫とのこと。本当にありがたい。ユースケさんもエイドについてトマトスープを食べていた。アパを出た後に40分くらいロストをしたらしいく大変そうだった。昨年はスープの酸味で気持ち悪くなりこの後のセクションで吐いた事を思い出し、シャリ玉を何個か食べて、トマトスープを少し口に含んだがやはり危なそうだったので飲まずにおいた。なぜか肩がパンパンに凝っていたので、北野さんにお願いして肩をもんでもらって助かった。エイドで寝ていたちゃんぷさんとスースーさんが起きてきた。足がベタベタしてきたので水道で洗って水を頭からかぶってスタートした。


ここから先は長いゲレンデの登りセクションだ。淡々とゲレンデを登っていく。登りの途中にレストハウスの自販機があり昨年は暑かったのでここで補給をしたことを思い出したが、今年は体も動いているのでパスしてそのまま登っていった。しばらく登ると先にエイドを出たユースケさんとキリアン沢田さんと一緒になった。声をかけて少しだけ先を行かせてもらう。

途中から昨年と変わり藪を切り拓いた新コースに入り、沢を越えるシングルトラックが続いた。途中でちゃんぷさんが抜かして行った。さすがに強いなと感心する。ところがその先の下りではまたちゃんぷさんに追いついてしまう。豆が潰れてとても痛いらしく、下りがきつそうだ。挨拶をして先を行かせてもらった。この後何度もちゃんぷさんに登りで抜かれて、下りで抜き返す、を繰り返すことになる。

何度かゲレンデを横に抜けてだらだらとしたロードを行くと、いよいよ最後のゲレンデ直登が出てきた。一歩一歩しっかりと登っていく。終わらない登りはない。厄介だが、辛くはない。そんな事を考えながら登るとピークに出て、視界の開けたゲレンデの高級ホテルの横を下っていった。10時50分過ぎに89km地点、赤倉観光リゾート到着。さあ待望のラーメンだ。


蟹味噌のラーメンは美味しかった。しっかり汁まで飲み干して、トイレを済ませて出発した。さあいよいよペーサーの待つ黒姫だ、北野さんが待っているぞ。川沿いのロードを進んでしばらくアップダウンのある林道を進み、いくつかの山を越えるとスキーの宿が立ち並ぶ杉沢の集落に降りてきた。杉沢の分岐ではふらふらさんこと佐々木さんが交通整備をしていて、写真を撮ってくれた。「この先のランナーで結構へばっている人多いから、マイペースで行けばまだまだ抜けるよ」と言ってもらえて元気が出た。

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集落を抜けると川沿いに降りる。ここから110kmのランナーとの合流地点だ。110kmのランナーは緩やかな登りでも歩いている人が多く、それを見ると空元気で思わず走ってしまう。まるでキャノボのPOWERでSPEEDのランナーを追い抜くときの気分だ。しばらく川沿いを登ると私設エイドに到着。可愛い子供がコーラを入れてくれたり、瑞々しい梨や西瓜が振る舞われて、何よりスポーツ麦茶じゃないリアル麦茶があったのが嬉しかった。スポーツ麦茶はしょっぱくて美味しくなかったんだよな。

エイドを出て登りを行くと、見憶えのある走れるトレイルに出た。気持ちよくトレイルを走っていると前方に緑のTDTキャップをかぶった人が歩いていて、こっしーさんだった。あの強いこっしーさんが歩いているなんて。声をかけると、膝が痛くて50kmくらい歩いてきたとのこと。その強靭な精神に驚く。黒姫でマッサージして休めば大丈夫ですよ、と声をかけて先を行かせてもらう。黒姫到着予定は早ければ13:00~13:30かなとメッセンジャーで連絡したが、そんなに早く着くはずも無く、訂正メッセージを北野さんに送る。結局黒姫に到着したのは13:50頃になってしまっていた。

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102km地点の黒姫エイドではイワクラメンバーが大歓声で迎えてくれて、めちゃ嬉しかった。自分がトップランナーみたいに錯覚してしまう。ご丁寧に椅子を確保してくれていて、座らせてくれた。王様気分だ。北野さんがポットにお湯を入れてくれていて、和風のカップ麺を食べさせてくれた。このエイドではお湯が無いと思って諦めていたのでほんとうにうれしかった。長田さんがいろいろと世話を焼いてくれた。水を入れてくれたり、ゴミを捨ててくれたり助かった。牧さんが肩をもんでくれた。これもめちゃくちゃ助かった。神さんが強いねーと褒めてくれたのも嬉しかった。ゆかりさんが声援を送ってくれた。むらむらさんも元気そうだと言ってくれた。そんな風にみんなに沢山力をもらい、SUUNTOの充電が限界なのでDBからバッテリーを接続して、3本目の500mL粉飴ジェルをザックにさして、ペーサーの北野さんと黒姫エイドをスタートした。

出がけに「朝飯前朝飯前!」と声援があった。そう、I eat 100miles for breakfastだぜ!

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北野さんに少しだけ前を行ってもらいながら、緩やかで長い林道の登りを行く。なかなか大変だったが北野さんが引っ張ってくれたので頑張れた。ようやく上まで行くと緩やかな下りとトレイルに入ったが、北野さんの引っ張り具合は絶妙で、とても気持ちよく走ることが出来た。気持ちよく下ってランナーを抜いていると、「この先渋滞なので急がなくていいです」という誘導員の声。ここで想定外の事態が発生、吊り橋渋滞だ。すぐに抜けるかと思っていたが、40分くらいは足止めをくらったように思う。

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2人ずつ行かせるのでかなり時間がかかっていて、誘導員が関門タイムの延長を電話で相談していたが、無理そうだという情報も入ってくる。行列の後ろには設楽北斗ペアも見えた。関門には余裕もあったのでそこまで焦りは無かったが、後半のランナーは大変だろうなと思った。ようやく吊り橋を渡ると、急な登りから美しいトレイルに入る。吊り橋からのこのコースはロッキンベア黒姫でも走ったコースなので安心感はあった。タイムロスしたこともあって頑張って緩やかな登りは走りながら行くと、ようやく第四関門の113km地点、笹ヶ峰グリーンハウスに16:50頃到着。


笹ヶ峰では北野さんが素早くとってきてくれたカレーをかきこんで、すぐに出発した。ランボーの桑原さんが声をかけてくれていて、ここでこのタイムなら絶対最後まで行けるよ!と声をかけてくれてうれしかった。

そこから先はこれもロッキンベアで見憶えのある牧場だ。北野さんに先行してもらいながら、クロカンのコースのような牧場の中のトレイルを進む。しばらく行くとダムに出て、ダム横の長い階段を登りきったところで暗くなってきたのでヘッデンをセットした。さあ二晩目の始まりだ。

そこからしばらくは淡々と進んでいった。次第に暗闇になり、北野さんの後をついて淡々と進んでいくと、声をかけられて優子さんのペーサーのぐっさんだった。この暗闇で横をすれ違っただけでよくわかったものだと感心して振り向くと、真っ白な顔をした優子さんがそこにいた。表情が無い。強烈な眠気に苦しんでいるようだった。かなり気持ちも弱ってきつそうだったが絶対ゴールへ行けますよと北野さんと二人で元気に励まして先へ進んでいった。

そうして淡々と進んでいくと126地点の西登山道入り口のウォーターエイドに到着。ほどなく優子さんたちも到着、さっきよりは元気になっていたので安心をした。ここから先は一山登りがあるが、次のエイドは5kmほどだ。大丈夫だろうとすぐに登りに入ったが、後々その考えは甘かったことに気づかされることになる。

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トレイルの登りは泥沼だった。ここまで何度か泥地帯があったのだが、この山の登りは酷かった。トレイルが足首まで浸かる沼のようになっていて、最初はトレイル脇を避けて進んでいたが、何度か泥に落ちるうちにもう無理だとむしろ積極的に泥の中へ足を踏み入れていった。ところがこの粘土質の泥が重たく絡みついて、靴が脱げそうになる。最近は靴ひもを締めないスタイルできたのだが、この時ばかりは靴ひもを締めておけばよかったと後悔した。しかも泥水の中に足を踏み入れると、水と一緒に靴の中に小石が入ってくる。それが足裏に入って痛いので、何度か止まって石を取り出した。

そんなストレスだらけの山道を何とか登り切って、ようやく下りに入ったがこちらもぬかるんでいて下りを攻めるという気持ちが完全に折れてしまった。後方から聞き覚えのある声が聞こえた。北斗設楽ペアだ。下りを猛スピードでぶち抜いて行った。抜かれた悔しさよりも清々しい気持ちになり、元気になった2人にこちらまで嬉しくなった。「僕らは僕らのペースで行きましょう」北野さんの優しさも嬉しかった。「大橋林道まで行ったらお湯があるのでカップヌードル食べましょう」


131km地点大橋林道エイド、20時過ぎに到着。ここまでの5kmは長かった。北野さんがもっていてくれたカップヌードルを食べていると優子さん達も到着。あの泥沼を良いペースで来ているのを見て、2人の完走も確信した。ここから戸隠までの12kmは大きな山は無い。第五関門の制限時間は0時、このペースで行けば間に合うはずだ。


エイドを出てフラットなトレイルを進む。足元は滑りやすい木道や舗装の道があって、走りにくいパートだった。それでも先を行く北野さんが細かい路面の状況をいちいち教えてくれ、ハンドライトでトレイルを照らしてくれているので助かった。しばらく進むと暗闇の中に真っ赤な鳥居が現れた。鳥居のトンネルをくぐって行くと、この世では無いどこかへ連れて行かれるような感覚になった。


22:50頃、143km地点戸隠スキー場エイド到着。最後の大きなエイドで、北野さんが遠くから蕎麦を取ってきてくれた。甘酒も飲んだが美味しかった。

残り17kmを4:30で行けば良いのだ。大丈夫だろう。エイドにいる人達にも安堵の表情が見えた気がした。そう、この時はまだこんな風に思っていたのだ。


23時過ぎに戸隠スキー場エイドを出発。あとはラスボスの瑪瑙山を越えるだけだ。お願いだからあの泥濘は勘弁してくれ、そんな願いも虚しく無情に登りの泥道が始まった。泥に足を取られてうまく登れない。何度か足首まで泥に突っ込まなければ行けないトレイルを通り、気怠い登りを行くうちに、何もかもが嫌になって来た。まるで勝ち目の無いベトナム戦争みたいだ。歩みが重く、後ろに渋滞が出来るのでトレイル脇に避けて沢山のランナーを先に行かせてやった。

ノロノロとした歩みを繰り返ししていると、ようやくなだらかな下りのトレイルに出ると、前方に明かりが見えた。「瑪瑙山山頂まであと1.1km!」やはり頂上はまだ先だった。

心が折れそうになりながらも、歩みを進めた。巨大なゲレンデに亡者のようなヘッデンの列が続いていた。自分もその列に入りひたすら体を持ち上げる。右、左、その繰り返し。みぎ、ひだり、みぎ、ひだり


終わりのない登りは無かった。ようやく瑪瑙山山頂に到着。しかし安堵の気持ちは無かった。さっきの山のように下りも泥濘んでいたらどうすれば良いのだろうか。その心配は杞憂に終わり、下りはとても下りやすいゲレンデだったので、北野さんと安心して声を掛け合いながらスムーズに降りる事が出来た。


そこからあと一山あることはわかっていたが、大きな山で無い事はわかっていたのでここからはペースを上げたかったが、トレイルは大勢の人で渋滞していた。瑪瑙山で予想以上に時間をかけてしまったので焦って前へ行きたいが、渋滞が酷くて進めない。焦ってタイム表を見ようとした時に、足元の大きな石につまずいて大きく転倒して谷底へ転げ落ちそうになって、前後のランナーが助けてくれた。全く焦り過ぎだ。


程なく小山は終わり下りになって最後の153km地点飯綱山登山口エイドに午前2時前到着。残り7km、あと一時間半あるからゴール出来る気はしたが何が起こるかわからないので一刻も早く終わらせてしまいたかった。ヘッデンの電池を明るくして、北野さんに声をかけて最後の疾走が始まった。


下りと聞いていた最後の林道は、少しガレて緩やかな登りだった。北野さんはぐいぐい走って引っ張ってゆく。自分は必死に食らいついて行く。まるで練習会の皇居ペース走みたいだった。登りで歩くランナーを次々と抜かしていく。抜く。抜く。抜いては抜く。110kmのランナーが声援を送ってくれた。緩やかな登りは長く続いてなかなか下りにならなかった。途中で流石に北野さんに着いて行けなくなり「北野さん、9割5分で!」と言ったら歩いてくれた。でもまた走った。


そのうち恒例の二晩目の幻覚が出てきた。あり得ない山の上にヘッデンの明かりが見えたり、先を行くランナーが明るい小屋に立ち寄っていたり。もう慣れたものなので、はいはい幻覚ね、と構わず走っていた。


そのうちようやくフラットな所に出て、再び登った後はいよいよ下りの林道になった。北野さんと走る。北野さんと抜く。抜かし際にランナーが「走ってるのみんなマイルの奴らだ、すごい」と言っているのが聞こえた。遠く下った先に誘導員の光が見えた。「幻覚じゃないよね!」と言いながら誘導員の指示通り左に下って行く。


僕は叫ぶ「北野さん、ありがとう!」

北野さんも叫ぶ「どういたしまして!」


北野さんが、遠くで声援が聞こえると教えてくれる。

僕には幻覚なのかどうなのか、よくわからない。


トレイル脇に旗が立っていた。

その旗を通り過ぎると、ゲレンデの丘の上に出て、眼下には輝くゴールゲートが見えた。


北野さんと手を繋いでゲレンデを降りる。


何人かランナーがゴール待ちをしていた。

前のランナーがゴールテープを切ったのを見届けて、北野さんと手を繋いでゴールゲートをくぐった。

 

31時間19分37秒。北野さんありがとう。

 

〈レース後〉

最終関門からゴールまで、実に90人を抜いていた。どんだけー

 

100マイルでのペーサーは初めてだったけど、ペーサーって偉大。少し厳しく引っ張ってもらえると、頑張っちゃうね。

 

マイルの完走率は48%くらいだったらしい。ゆっくりでも走り続けないといけない、しかも何か1つ歯車が狂うと完走出来ない関門設定はやはり甘くなかった。

 

ゴールしてバスで長時間移動して宿に戻って風呂に入ったら朝の6時だった。ゴールした後の方が疲れた。

 

表彰式でバッコーもらえたのは、やっぱり嬉しかった。

 

妙高駅前の酒屋のベンチでビールを飲みながら見上げた青空が忘れられない。

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