100マイルの終わらない物語

100マイルの山岳レースに挑戦した記録です。長いです。だって100マイルだもの。

トルデジアン200マイル完走記 2019 ①プロローグ

トルデジアン  Tor des Geants (2019/09/06-2019/09/15)

場所:イタリア北部アオスタ州クールマイユール

 

プロローグ

330kmの巨人の旅。世の中にはそんなレースがある事を知ったのは4年前、近所のランニングショップで偶然パンフレットを見た時だった。当時はまだ100マイル完走を目指している途中で、自分には遠い世界の出来事だと思っていた。そして今、そのパンフレットを手にイタリアへ旅立とうとしている。こんな日が来ようとは夢にも思わなかった。そして夢は今、現実になろうとしていた。

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Tor Des Geants、巨人の旅。イタリアのクールマイユールを起点に、北部アオスタ州の山々を巡る壮大な旅。距離は330km、つまり200マイル。累積獲得標高は24000m。実に富士山8回分、エベレスト3回分を登るというよくわからないスケール感だ。

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気になる制限時間は150時間、つまり6日と6時間だがこれも長いのか短いのかよくわからない。こんなクレイジーなレースに出たことのある変わり者が周囲には意外にいるもので、いろいろアドバイスを聞いてみたものの、結局わかったことは「 長すぎるレースでは想定外の事が必ず起きるから、やってみなければわからない」ということだけだった。

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スタート地点のクールマイユールまではジュネーブ経由で行くのが 一般的だが、値段と移動時間を考えてミラノ経由のエアチャイナで行くことにした。エアチャイナは北京経由で乗り継ぎも短いためロストバゲージが心配ではあったが、羽田発の夜便で出発できる手軽さと、ミラノまで 9万円台という安さに魅かれて決めたのであった。いつもなら海外のレースは荷物紛失が怖いので全て機内手荷物で持ち込むのだが、エアチャイナは手荷物の重量が厳しく、北京乗り継ぎでストックを没収されるという噂を聞いたため、手荷物には万一のロストバゲージに備えてレースに出られる最低限の荷物を持ち込み(シューズとザックとヘッデンとリチウムバッテリーとレイン)、その他の荷物は飛行機に預けることにした。

これがドラマの始まりだったのだ。

 

9月5日(木)は仕事を早めに切り上げて、羽田空港21:00発 のエアチャイナで出国。一緒に行くのは同じランボーズの類くん。エアチャイナの機内は思ったよりも快適で映画も充実、 食事も心配していたほど酷くは無かった。

だが、恐れていた事態は、やはり起こった。

 

北京での乗り継ぎは確かにタイトだった。小走りにターミナルを走りミラノ行の便に飛び乗った。そして6日 の明け方にミラノマルペンサ空港に着いた時、いくら待っても僕たちの荷物は、コンベア上に出てこなかった。

 

LOST BAGGAGE.

 

ある程度予想してたとは言え、それが実際に起こってしまったという事実が、うまく目の前の現実と重ならなかった。

トルデジアンやれんのか、俺。

 

落ち着け。誰を責めても仕方ない。最後のバッグが排出された事を確認すると、近くにいた係員にバッグが無い事を伝えた。係員は手慣れた様子で僕たちが行くべきところを教えてくれた。その窓口の名前は、LOST&FOUND

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窓口には数名の同じくロストバゲージした人達が並んでいた。 自分たちの番が来たので窓口の男性に、北京経由の便で荷物が届かないこと、現在荷物のある場所を確認してほしいこと、 自分たちはクールマイユールで山岳レースに出るため明日には荷物がどうしても必要であることを伝えた。

 

窓口の男性はしばらく端末を操作して、僕たちの荷物は北京にあること、クールマイユールまで荷物を届けるには48時間かかること、よって明日荷物を受け取りたいのであれば、24時間後の明朝に空港へ来て、明日の同じ便で届く荷物を受け取るのがベストな方法であることを、冷静かつ機械的に教えてくれた。

 

トルデジアンの受付は、翌日7日にエントリーして8日の正午スタートのため、明日の朝に荷物を無事に受け取る事が出来れば、その足でクールマイユールに行き夕方に受付を済ませて 何とか翌日のスタートには間に合う。これ以上悩んでも仕方が無い。僕たちは急遽ミラノでもう一泊して翌朝クールマイユールへ移動するプランに旅程を変更する事にした。

 

そうなるといまやるべき事は一つ、ミラノ観光だ。トルデジアンはレースに一週間もかかるので、ミラノは観光する時間も無く素通りするつもりでいた。アクシデントをラッキーと思って楽しむしかない。早速バスやホテルの変更をして、 今夜のミラノのホテルも予約をして、類くんとミラノ市街地へと向かった。

 

ドゥオーモ前で浮かれるロスバゲ兄弟(身軽!)

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ナヴィリオ地区のアペリティーボ(ハッピーアワー) でお腹いっぱい

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急遽Booking.comでとったミラノ空港近くの宿は、ホテルと思ったらタクシーで着いたところが真っ暗な住宅街の中の看板も無いただの民家だったので焦ったが(Airbnbかよ!)、インターフォンを押すとおばあちゃんと家族に温かく迎えてもらえて快適な一夜を過ごしました。

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そして翌朝の同じ時刻にミラノ空港へ。 果たして僕たちの荷物は届くのか。

 

窓口の係員がとんちんかんな対応をするというハプニングもあったけど、まあそれもイタリア流。荷物のレーンに行ってみると、あったー!

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24時間遅れで荷物を無事回収。これで問題なくレースに出られると一安心。ただバスで現地入りすると夕方になってしまい、そこから受付を済ませて翌日のレースの準備をするとなると時間に余裕が無いし、睡眠時間に支障が出るかもしれない。 そこで急遽空港のレンタカー屋へ行き、ミラノからクールマイユールへの片道レンタカーを借りる交渉をして、時間を節約する事にした。

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ミラノから高速道路を北上でぶっとばす。

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途中でドンナス付近を通過。レースで3日目に通る予定の町だ。どんな気持ちでここに辿り着くのだろう。

 

高速道路の途中のインターで昼食をとる。 搾りたてのオレンジジュースが美味!

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そして昼過ぎには遥かなるクールマイユールへ到着! 車もあるので受付会場すぐ横に乗り付けて、受付へ。

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たくさん貼ってあるポスターにテンションはいやがおうにも上がる !

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グッズも盛りだくさん!イタリアらしくビビッドでかっちょいい!

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しばらく順番を待つと、受付けが始まった。今年はなんと、リストにあった必携品の装備チェックが無くなり自己責任になった。もちろん標高3000mを超える難コースなので、チェックが無いからといって装備を持たないような人はそもそも出るに値しないという考えなのだろう。

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夢に見たトルデジアンの黄色いドロップバッグをもらう。

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トルデジアンのドロップバッグは60Lの大容量で、途中約50kmごと6か所あるライフベースをこのドロップバッグが追いかけて くるというシステムだ。 必要な荷物は全てこのドロップバッグにぶち込んでおけば良い。なんて素晴らしい仕組なんだ。

ただこの時には調子に乗って色々荷物をぶち込んだ結果、痛い目を見ること になるとは思わなかった。

 

無事にゼッケンをもらい、類くんとアルプスをバックに記念撮影!グレーのキャプリーンの上着は参加賞です。

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受付を終えた後は車でスタート地点に行ってみた。浮かれまくるロスバゲ兄弟。

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宿へチェックイン。Hotel Pavillonは多くの日本人ランナーが泊まる定宿だ。

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バルコニー付きの部屋で快適。しかもレース中は荷物を部屋に置いておいても宿代がかからないという素晴らしいシステム。朝飯のビュッフェも美味しいし最高でした。

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部屋でレースの装備を準備。

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ジェルはいつもの粉飴のグレープフルーツジュース割りを作る。トルデジアンは長いレースなのでジェルはほとんど不要という前情報ではあったが、僕は結構な量の自作ジェルを準備しておいた。結果は大正解。それくらい登りでジェル投入してプッシュしないといけないところが多かった。

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荷物準備が一段落したので、 類くんとクールマイユールの町へ散歩に出かける。

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石畳の素敵な商店街は、 山岳リゾート地らしく数多くのアウトドアショップが並んでいた。 しかもトルデジアンランナーは全品25%引き!良心的だね。

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パタゴニアもトル一色!

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広場にはトルデジアンの写真が飾られていた。 これもテンションあがる!

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すっかり観光気分で散策をした後は、受付会場のパスタパティーへ。

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ただ食事の開始は21時頃になるとのことだったので、早めに切り上げて近所のハンバーガー屋へ。ボリューム感があってとても美味しかった!

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その夜は23時頃に就寝。

 

翌朝はしっかり寝ようと思っていたが7時頃に目が覚めて、ビュッフェで食事をしっかり食べる。 最終の荷物確認をしてテーピングを済ませた。マイル腰対策のテーピングもばっちり貼ったので、巨大なドロップバッグを担いで受付会場へ向かう。

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ドロップバッグを預けるカウンターでは、 天気予報では初日が最も天気が荒れそうとのことで、 ドロップバッグからアイゼンを出すように言われる。 はいはいもちろんザックに入れてますよ。バッグを預けて身軽になったら、いよいよスタート地点へ。

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スタート会場はすごい人で溢れていた。

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大音量でU2のWhere the streets has no nameが流れ、U2なんて全然好みじゃなかったのだけどなぜか イントロに気分が高揚して泣きそうになる。

 

100マイルはスタートラインに立つまでが勝負だと言うが、今回は本当にそうだと思った。

 

ここに立つまでに本当に色々な事があった。そして直前のロストバゲージ。ぜんぶ乗り越えて僕たちはここまで辿り着いたんだ。

あとは全部出し切ってくるだけだ。全身全霊でこの330km、7 日間の旅を楽しもう。

 

行ってきます。

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